乾 志狼(VI)
ゆっくりと
ゆっくりと暗黒の闇に光が満ちていく。
ボクは…僕は…
光の先になつかしい顔があった。
「おはよう、彩夏ちゃん」僕は何を言っていいかわからず、とりあえず挨拶する。
「おはよう」覗き込む彼女の顔には涙の跡、でも彩夏ちゃんは笑ってた。
夕暮れの赤に染まる彼女。どれほどの時間がたったのだろう。膝枕の感触が気持ちいい。僕が起きるまでずっとこうしてくれていたのだろうか。ちょっと嬉しいような恥ずかしいような変な気分。
「奴は…黒羽と白羽が…?」そう、僕は化け狐と戦っている時に気を失った。それから記憶が無い。
「う…うん」
「そう」そうか、二人が倒してくれたのか。よかった。彩夏ちゃんが無事で。
そうなると体を襲う疲れも心地よい。
「事情は…二人から聞いたよ。」彩夏ちゃんは辛そうに言った。
「ごめんね、黙ってて。こんな事に巻き込みたくなかったし……恐かったでしょ?」知られたくなかった、塚上のことは。守りたかった。彩夏ちゃんだけは巻き込みたくなかった。
「ばーか。こんな事ぐらい私にはどうってことないよ」
「ありがと、彩夏ちゃん」
ああ…また、眠くなってきた。
「眠いの?もう少し寝てていいよ」優しい風が彼女の髪をさらさらと揺らす。いつもの彼女と違う穏やかでやさしい笑顔にどきりとする。
「そんな、彩夏ちゃん、膝枕大変でしょ。いいよ」
「いいの。こんなこともうしないかもよ。おとなしく寝ときなさい」
「…うん」徐々にまぶたが下りていく。
でも、悪くない。暗闇ももう恐くない。いい夢が…見れそう…だ。