<1>
夏の陽炎の中を、ひらりひらりと蒼い蝶が舞う。
そんな幻覚を見た気がした。
………
……
…
うるさいくらいの蝉の声でようやく我に還る。
眩暈に意識が遠くなっていたようだ。
ふと、忘れていた古ぼけた思い出が蘇える。
……どうして、急に思い出したりしたんだろう。
ずっと思い出せなくて、もうあきらめていたのに……。
そうか、もう七年が経ったのか。
まるで、そう……さっきの一瞬の眩暈のうちに十年が過ぎてしまったような。
そんな錯覚さえ覚える。
おれの足は誘われるように鳥居をくぐり、石段を踏みしめる。
いるはずなんかない。会えるはずなんかないのに。
そう思いながら手に「それ」を握り締めた。
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