美咲 彩夏(III)


気づくと私は町外れの通りをとぼとぼと歩いていた。ここまでどうやって来たのか良く覚えていない。
 全く、志狼にはいつもタイミングを外される。
 あれから携帯にもかけてみたが、電源が切られていた。まあ、どうせかかった所であの続きは話せないだろう。せいぜいいつものように志狼を罵倒するだけ。
 行き場を失った言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
 怒りと後悔と情けなさとそして一握りの切なさが渦を巻く。
 じわっと浮かんだ涙をぐっとこらえて、上を向く。
 よし、明日はもっと志狼をいぢめてやろうと心に誓うのだった。…我ながら屈折している。
 でも……気になっていた。
『ごめん、ちょっと考え事していたから…』
 あの時の志狼の顔が忘れられない。
 その時の志狼は普段見たことがないほど思いつめた顔をしていた。
 私は初夏の日差しを手で遮りながら彼方を仰ぎ見る。
 志狼は喫茶店から見えるあの丘をちらちらと見ていた。
 …狐鳴山。
 妖怪狐が昔住んでいたという昔話の残る神社がある。
ドクン  ドクン  ドクン  
 なんだか嫌な予感がする。
 普段と違う志狼の態度。何かが起こっている気がした。
 気づくと私は、もと来た道を駆け戻っていた。
 目指すは狐鳴山、狐鳴神社。


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