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先輩にその右目の傷の由来を聞いたのはもうすぐ梅雨が明けるという初夏のある日だった。
「この傷か?かっこ悪い話だし言いたくないね」
先輩はメガネを拭きながらそっけなく答えた。
雨の日は水やりもする必要が無いし、草むしりも無くて園芸部はずいぶん暇だった。
雨の日のわたしの長い髪はまとまらなくて、憂鬱な気分になる。
枝毛を探すのも飽きてしまって、つい魔がさしてしまったのだ。
「えー、教えてくださいよ」
先輩の右目の視力はほとんど無いらしい。
そんな噂をクラスメイトから聞いた。
メガネのフレームにうまく隠れているけど、よく見れば、眉の辺りからまぶたにかけて薄くキザキザした傷痕が残っているのがわかった。
話すのを渋っていた先輩だったけど、それでもわたしがあんまりしつこく聞いたからか、先輩は観念して答えてくれた。
「……昔な、ガキのころだったけど、川におぼれたちっちゃい女の子を助けようとしたことがあってな……前日大雨で川が増水してたもんで自分もおぼれちまって」
ヒーロー気取りでバカなことをしたもんだ、と先輩はなんとも恥ずかしそうに鼻の上を掻いた。
「その上、上流から流れてきた流木が目に当たって。一時は失明かとか言われたんだけど、それだけは免れたてっ話だよ。かっこ悪いだろ。……そういやおまえは水泳得意だったよな。おれじゃなくておまえだったらそんなことなかったかもなー」
先輩は笑って話していたけど、わたしは聞いてはいけないことを聞いてしまったように思った。
先輩の口からそんな話が出るとは思わなくて、ショックでちょっと眩暈がした。
まさか、わたしが……
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